概要
前立腺がんに対する手術療法は標準の治療の一つです。さらにロボット手術は従来の開腹手術とは異なり、極めて良好な視野を得ることができるため、その結果として前立腺がん手術の問題点である尿失禁や性機能障害の改善に繋がっています。
また、手術時の出血量は極めて少なく輸血の可能性も低く、術後の腹部の疼痛も開腹手術と比較すると顕著に改善しています。
しかし、ロボット手術は決して小さい手術ではなく大手術の範疇に入るものと思います。以下に述べる説明を十分理解、納得して頂いて手術を受けて頂くことが大切だと考えています。
また、手術時の出血量は極めて少なく輸血の可能性も低く、術後の腹部の疼痛も開腹手術と比較すると顕著に改善しています。
しかし、ロボット手術は決して小さい手術ではなく大手術の範疇に入るものと思います。以下に述べる説明を十分理解、納得して頂いて手術を受けて頂くことが大切だと考えています。
本来、以下の内容は時間をかけ、ご本人やご家族に説明すべきですが、外来、病棟、手術の業務をこなしながら、さらに多くの方に時間をかけてご説明するのには限界があります。
そこで理解を深めて頂くためにこの文書を作成しました。
もちろん、内容に対してご質問などあると思いますので、入院後に最終的な確認をしたいと思います。
入院後に主治医、担当医師に遠慮なくお尋ね下さい。
そこで理解を深めて頂くためにこの文書を作成しました。
もちろん、内容に対してご質問などあると思いますので、入院後に最終的な確認をしたいと思います。
入院後に主治医、担当医師に遠慮なくお尋ね下さい。
現状
まず、前立腺がんの状態を把握することが必要です。以下に示す検査でおおまかに現状を把握することができます。
- 直腸診(肛門から指を入れる検査): 硬く触れる・触れない
- PSA値 〇
- 針生検の結果: 〇本中, 〇本に前立腺がんを検出。
- がんの悪性度: グリソンスコア 〇+〇 = 〇(米国の病理学者グリソンが作ったスコア、1+1から5+5まであり、数字が大きくなるほど再発の危険が高くなる傾向があります)。
- 骨の検査: 問題なし(骨転移がない)
- CTやMRIの結果: 問題なし(リンパ節転移がない)
以上の結果から、あなたの前立腺がんは 低, 中、 高リスクのがんと考えられます。このリスク分類により手術後の再発のリスクと関連します。また、後に述べる勃起神経を温存するかどうかにも関係してきます。
手術の概要
手術の目的は前立腺と付随する精囊を一緒に全部とることです。
前立腺を摘出した後に膀胱と尿道をつなげます。
また、前立腺の近くにあるリンパ節を取ることもあります。
高リスクの前立腺がんでは出来るだけ広い範囲のリンパ節をとることもあります。
前立腺を摘出した後に膀胱と尿道をつなげます。
また、前立腺の近くにあるリンパ節を取ることもあります。
高リスクの前立腺がんでは出来るだけ広い範囲のリンパ節をとることもあります。
麻酔方法
全身麻酔が基本となります。 点滴から眠くなる薬が入り、眠った後に麻酔科医が管をのどに挿入し,人工的に呼吸する標準的な麻酔方法です。
身体の姿勢
麻酔がかかった後に約30度頭側を低くして実施します。
ロボットに特徴的な姿勢ですが、このため眼の圧力が高まる可能性があるため緑内障や糖尿病で眼の悪い方は注意が必要です(前もって眼科医の診察を受けることがあります)。
ロボットに特徴的な姿勢ですが、このため眼の圧力が高まる可能性があるため緑内障や糖尿病で眼の悪い方は注意が必要です(前もって眼科医の診察を受けることがあります)。
手術時間
2時間半—4時間。
手術の前後、麻酔の導入や覚醒時間を入れると手術室に行き、出てくるまで5−6時間かかります。
手術創
手術後の状態
- 前立腺をとった後に膀胱と尿道をつなぎますが、つないだ吻合部がしっかり繋がるまで尿道から管が入ります。
この管は6−7日間入れたままで、挿入中は自然に管を通して袋に尿がたまります。
この間は排尿のためにトイレに行く必要はありません。排便は翌日から普通にできます。 - 手術後の疼痛:開腹手術より明らかに痛みは少ないですが、3−4日間は腹部の痛みがあります。
また、手術後に尿道に管が入るために刺激で強い尿意を感じることがあります。
尿意は慣れますが、痛みが強い時には適時、痛み止めの注射をしますので心配しないで下さい。 - 手術翌日から歩行ができます。可能な限り歩いてもらうことで肺炎などの手術後の副作用が防げます。
- 手術後6、7日目に検査後に尿道の管を抜きます。
- 排尿の状態の確認:自分で排尿できるか、尿失禁の状態はどうかを確認します。
- 常は入院後、退院まで約2週間を要します。
ロボット手術はとても良い手術であることをわれわれ術者は実感していますが、決して小さい手術ではなく、以下に述べる副作用を十分理解して頂くことが大切です。
副作用(合併症)
稀な副作用
出血
感染症
ロボット手術の傷はとても小さいため傷が感染して付きにくくなるようなことは極めて稀です。
その他、腎盂腎炎、胆嚢炎、肺炎などの感染症も極めて稀です。
その他、腎盂腎炎、胆嚢炎、肺炎などの感染症も極めて稀です。
血栓症
心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞のことを意味します。
飛行機のエコノミー症候群と同様に長時間同じ姿勢でいるために足で血が固まり、それが心臓、肺、脳に行き梗塞を生じます。極めて稀な副作用ですが、発生すると重症になることがありますので、可能な限り予防をしたいと考えます。
予防方法の一つとして手術直前から、きつめのストッキングをはいてもらいます。
また、麻酔がかかった後に我々が特殊なものを足に巻き空気で圧迫することを手術の翌日まで実施します。
飛行機のエコノミー症候群と同様に長時間同じ姿勢でいるために足で血が固まり、それが心臓、肺、脳に行き梗塞を生じます。極めて稀な副作用ですが、発生すると重症になることがありますので、可能な限り予防をしたいと考えます。
予防方法の一つとして手術直前から、きつめのストッキングをはいてもらいます。
また、麻酔がかかった後に我々が特殊なものを足に巻き空気で圧迫することを手術の翌日まで実施します。
直腸損傷
前立腺は便が通る直腸の上に乗った状態にあります。
前立腺をとる時には直腸から剥がしてとらなければなりません。
その際に直腸に小さい穴があいてしまうことを直腸損傷と呼びます。手術中に直腸損傷が明らかであれば縫って穴をふさぎます。
しかし、縫った後もふさがらないとか、手術後に穴があることが判明し、手術の処置でも対応が難しい時には大腸の手術をしてお臍の左横に人工肛門を作り6ヶ月〜1年間は人工肛門から便をします。
これをすることで直腸損傷は自然にふさがり、改めて6ヶ月〜1年後に人工肛門をもとに戻す手術をします。幸い、当院では直腸損傷は起きていません。
前立腺をとる時には直腸から剥がしてとらなければなりません。
その際に直腸に小さい穴があいてしまうことを直腸損傷と呼びます。手術中に直腸損傷が明らかであれば縫って穴をふさぎます。
しかし、縫った後もふさがらないとか、手術後に穴があることが判明し、手術の処置でも対応が難しい時には大腸の手術をしてお臍の左横に人工肛門を作り6ヶ月〜1年間は人工肛門から便をします。
これをすることで直腸損傷は自然にふさがり、改めて6ヶ月〜1年後に人工肛門をもとに戻す手術をします。幸い、当院では直腸損傷は起きていません。
その他の副作用
以上はいずれも極めて稀な副作用ですが以下の副作用は程度の差はあってもあり得る副作用です。
【尿失禁】
当面、一番の問題はこの尿失禁と思われます。排尿の開け閉めは前立腺のすぐ下にある外尿道括約筋でコントロールされています。前立腺を摘出する際にこの外括約筋がどうしても一時的に弱くなるために失禁がおきます。手術後6−7日目に尿道に入っている管を抜きますが、抜いた当日、翌日は失禁が多く、日に日に改善して行きます。個人差はありますが、通常、手術後1ヶ月後には失禁用のパッドを1−3枚ですむようになり、その後、さらに減少していきます。改善が遅い時にはお薬を使用することがあります。また、手術後に失禁を防ぐ体操を指導されます。
【性機能障害(勃起不全)】
前立腺の左右に一本ずつ勃起神経が走っています。通常は針の検査でがんが出た方は神経を温存せず、切ることが多くなります。それは神経温存をすることでがんが身体の中に取り残されてしまう可能性があるからです。針の検査でがんが出なかった方は神経の温存が可能ですのでご相談の上、方針を決めます。左右ともにがんが出た方は、ご希望に応じて針の中のがんの特徴(がんの長さや悪性度)を参考にしてご希望であれば温存するようにします。通常、両方の神経を温存すると手術後2年後までに80%の方が性機能の改善をみますが、片方の温存ですと約40−50%となります。現在は助けになる薬がありますので外来で相談しながら、必要であればお薬を使用します。
その他の稀な副作用
- 【尿道狭窄】
前立腺を摘出後、膀胱と尿道を繋ぎますが、繋いだところが硬くなり尿道がせまくなることがあります。ロボットの手術では稀ですが、もし生じた場合は外来で尿道を広げたりすることがあります。 - 【腸閉塞】
ロボットの手術は腸があるお腹のなかにガスを入れ膨らましてする手術です。腸の手術をするわけではありませんが、同じ空間で手術をするために手術後に一時的に食べ物の流れが悪くなることがあります。ほとんどの場合、時間とともに改善します。 - 【腸損傷】
極めて稀です。 - 【尿管損傷】
極めて稀です。腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管を損傷する副作用です。万が一の時には手術で修復します。 - 【予期できぬ合併症と手術関連死】
前述した様にロボット手術はとても良い手術で患者さんに優しい手術と考えます。しかし、どんな手術でも予期できない副作用の可能性はゼロではありません。それは麻酔薬へのアレルギーであったり、上記した血栓症などです。そのような予期できぬことが起こり、手術後30日間に死亡すると手術関連死と呼ばれます。そのような可能性はゼロとは言えませんが、実際、当院では過去、このロボット手術でそのような例を一例もなく安全な手術と認識しています。
手術後の再発について
- 【どうして再発?】
手術で前立腺を全部摘出するのにどうして再発するのか疑問に思われると思います。
医者が肉眼で見ながら前立腺全体を摘出する訳ですが、再発の多くが既に前立腺を包んでいる膜を超えて周囲に前立腺がん細胞が広がってしまっているためです。 - 【再発はどうして発見される?】
身体の中でPSAを作る前立腺が摘出されると約1ヶ月半で身体からPSAがなくなりゼロとなります。
ゼロとなったのに再び、0.2以上が続くと再発と定義されます。
しかし、この時点でCTや骨の検査をしても異常がわかることはほとんどありません。また、症状が出ることもありません - 【再発したらどうする?】
幸い、他の厳しいがんと違い、PSAの再発がおきてもすぐ生活に支障を来したり、死に至ることはありません。
基本的な対処としては
1)放射線を手術したあとにあてる
2)ホルモン治療(内服薬や注射)
3)何もせずPSAを定期的に検査する、があります。
手術前の情報、手術後の前立腺検体の情報、患者さんやご家族の考え方などを合わせて方針を検討します。